小売店舗のDX推進|センサーとAIで店舗データ分析「SECURE AI STORE LAB」
最終更新日:2021年01月13日
新宿住友ビル地下1階にある未来型無人化店舗が「SECURE AI STORE LAB」です。センサーとAIによる顔認証決済や棚解析など、最新のテクノロジーを使った店舗システムの実証実験を行っています。
店舗を運営しているのは、顔認証ソリューションや防犯カメラシステムなどを提供している株式会社セキュア。今回は、ゲートの開発を担当された「事業開発部 商品開発課 松永 匠 主任」に、オープンから今までの小売店からの反応や、今後の展開についてお話を伺いました。
※本記事の内容は、2020年10月10日時点の情報です。
SECURE AI STORE LAB利用の流れ
SECURE AI STORE LABでは、カメラによる顔認証で入店から決済までできるため、買い物に財布やスマホは必要ありません。買い物をする流れは、以下の通りです。
- 個人情報の事前登録(初回のみ)
- 店舗前の端末で顔登録(初回のみ)
- ゲートで顔認証をして入店
- 棚の前に立ち、商品を取る
- ゲートで顔認証をして決済
ひとつずつ確認していきましょう。
1.個人情報の事前登録(初回のみ)
初めてSECURE AI STORE LABを利用するときは、事前に個人情報やクレジットカートなどの登録が必要です。スマホやPCなどのブラウザでSECURE AI STORE LABのログインページにアクセスして、新規利用登録をします。
登録には、以下の情報の入力が必要です。
- パスワード
- お名前
- 電話番号
- PINコード
- 生年月日(任意)
- 性別(任意)
- 利用可能なクレジットカード
画面に従って新規利用登録を済ませましょう。
なお、PINコードは、顔登録や決済の際に入力を求められます。忘れにくい数字にするのがおすすめです。
2.店舗前の端末で顔登録(初回のみ)
Webサイトでの新規利用登録を済ませたら、次は店舗前で顔の登録です。ここで登録すると、ゲートで顔認証を行えるようになります。
顔の登録は、店舗入口左にある端末で行います。
スマホでSECURE AI STORE LABのユーザーページにログインし、「QRコードを表示する」ボタンをタップ。画面に表示されるQRコードを、顔登録の端末のカメラに向けます。
続けて、カメラで顔を映して顔登録を行いましょう。顔登録まで1度完了すれば、あとは財布もスマホも必要ありません。(2回目以降の来店時、顔登録は不要です)
3.ゲートで顔認証をして入店
店舗入口のゲート前に立つと、瞬時に顔認証が行われます。ゲートが開いたら、入店して買い物です。
4.棚の前に立ち、商品を取る
店内には、3つの棚があり商品が並んでいます。棚の前に立って、気になる商品を手に取ってみましょう。
すると、棚のディスプレイに、持ち上げた商品の情報(画面左側)と、持っている商品リストがMY CART(画面右側)に表示されます。さらに商品を取ればMY CARTに追加され、商品を棚に戻せば減ります。
なお、購入する商品は鞄の中に入れてしまっても問題ありません。なんだか悪いことをしているようで落ち着きませんが、自動でカウントされているので大丈夫です。
棚のディスプレイでは、取り上げた商品の口コミなどの商品情報を確認できます。
ディスプレイはタッチパネルになっており「商品の口コミを見る」ボタンを指でタッチすれば、口コミが表示されます。画面はスマホと同じ要領で操作できました。
SECURE AI STORE LABでは、液晶に価格などを表示する「電子値札」を導入しています。従来の紙やプラスチック製の値札と異なり、さまざまな情報を自由に表示でき、内容の変更もリモートから可能なものです。
電子値札にはQRコードが表示されていて、スマホのカメラで読み取ると、該当商品のECサイトが表示されます。そこで口コミを確認したり、商品を購入したりできます。「商品は店舗で確認したいけど、購入はECサイトで」という人には便利な使い方になりそうです。
この電子値札について、松永氏は需給バランスなどを計算して自動で価格を調整する「ダイナミックプライシングも将来的にはやりたい」と話してくれました。
5.ゲートで顔認証をして決済
欲しい商品を棚から取ったら、決済して外に出ましょう。
ゲート前に立つと顔認証が行われ、識別された人のカートに入っている商品がディスプレイに表示されます。
内容に問題なければ「お支払い」ボタンをタッチ。続けてPINコードを入力すれば、新規利用登録で入力したクレジットカードを使って決済が行われます。
もしカートの内容に誤りがある場合は、「カートの編集」を押してください。購入する商品を訂正することが可能です。
決済が済むとゲートが開きます。「このまま出てしまって大丈夫かな?」と少し不安になるくらい、一瞬で決済が終わりました。
これでSECURE AI STORE LABでの買い物は終了です。
ちなみに、店内で一番安い商品は、SECURE AI STORE LABの水(税込み54円)。
「実は、以前は水の扱いがなかったんです。それで男性のお客様が、仕方なく化粧品を買っていかれていました(苦笑)」と松永氏。未来型無人化店舗を、とにかく一回体験してみたいという人にはぴったりです。
SECURE AI STORE LABの特徴
来店者(消費者)からみた特徴
- 手ぶらで買い物:顔認証で入店から決済までできるため、財布やスマホを持たずに手ぶらで買い物ができること。
- スムーズな購入:顔認証によって、手に取った商品が自動でカートに追加されるので、レジでバーコードなどを読み込む必要なく、スムーズに決済が行えること
店舗(出展社)からみた特徴
- 決済までの自動化:センサーとAIによりお客様の入店から決済まですべて自動で処理できること。それにより、スタッフは商品説明などの接客に注力できます。
- 購入者情報の取得:センサーで収集し分析したデータを専用ダッシュボードで確認できるため、商品配置の最適化を行ったり、購入者の傾向や商品ごとの分析を行ったりできること。
これらの特徴は、どのように実現されているのでしょうか?SECURE AI STORE LABを構成するカメラやセンサーを見てみましょう。
SECURE AI STORE LABを構成する4つのカメラとセンサー
SECURE AI STORE LABを構成するカメラやセンサーは、以下の4つです。
- 出入口ゲートのカメラ
- 商品棚のカメラ
- 商品棚の重量センサー
- 天井のセンサー
それぞれについて、以下にご紹介していきます。
出入口ゲートのカメラ
出入口にあるゲートのカメラは、前に立った人の顔認証を行います。入店時は、顔認証をパスするとゲートが開いて店内に入ることができ、退店時は顔認証であなたに結びついたカートに商品があれば決済画面が表示されます。
商品棚のカメラ
店内に並ぶ商品棚に付いているカメラです。商品棚の正面に立つと、顔認証をして「誰がいるか」を識別します。
後述する重量センサーと組み合わせて、商品を取ったり、戻したりしたのが誰かを判断するのに使用されます。また、商品を手に取った人の表情分析も可能です。
商品棚の重量センサー
商品棚の商品が置かれているトレイの下にある重量センサーです。トレイの区画ごとに、商品の重さを予め登録しているため、変化した重量をもとに動かした商品の数を計算できます。
先述の商品棚のカメラと組み合わせて、誰がどの商品をとったかを判別し、マイカートの一覧に反映させます。
天井のセンサー
天井に設置されたセンサーは、2種類あります。
一つは、動線や滞留の分析に使われるセンサーで、人がいる場所を検知します。店舗の見取り図上で、人がより長く・多くいた場所の色を濃くすることで、動線や滞留を視覚化できます。
もう一つは、コロナ感染防止を目的として追加されたセンサーで、ゲート前に立っている人の体温を測ります。一定以上の発熱がある場合、顔認証をパスしてもゲートが開かず、店内に入れない仕組みになっているとのことです。
また、コロナ感染防止として現在は、ソーシャルディスタンスを確保するため、一度に店内に入れる人をスタッフ含めて最大4名に制限する設定になっています。
ここまでSECURE AI STORE LABを構成するカメラやセンサーを見てきました。
続いては、これらのカメラやセンサーで収集したデータが、ダッシュボードでどのように確認できるのか見てみましょう。
ダッシュボードで確認できる15の分析データ
SECURE AI STORE LABのカメラやセンサーで収集したデータは、AIで分析され以下の15項目がダッシュボードで確認できるようになります。
- 棚モニター
- 売上金額
- 平均購入金額
- 購入者性別
- 購入者年齢
- 購入者表情
- 入店者数
- 店舗CVR/目標CVR
- 売上金額トップ5
- 売上個数トップ5
- 商品ごとの分析
- 棚ヒートマップ
- 店舗ヒートマップ
- 下限警告
- 持ち去り警告
これらの分析データは、商品配置の最適化やターゲット層の見直しなどの改善に使えます。
それでは各分析データがダッシュボードでどのように表示されるのか見ていきましょう。
棚モニター
各棚に配置されている商品の在庫数が確認できます。 後述する下限警告、持ち去り警告が発生した場合、棚モニター上でも商品の背景色がオレンジ色に変わって知ることができます。
売上サマリー
・売上金額
週ごとの売上金額を確認できます。オレンジのラインは「店舗CVR」で、購入客数/入店客数を計算した数値です。来店者のうち、購入に至った割合の推移を示しています。
・平均購入金額
商品を購入したお客様の平均購入金額を確認できます
・購入者性別
商品を購入したお客様の性別を確認することができます。
・購入者年齢
商品を購入したお客様の年代別人数と、年代ごとの性別比を確認することができます。
商品一覧
・購入者表情
商品を購入したお客様が商品を手に取った時に、どのような表情をしていたのか確認できます。
・入店者数
週ごとの入店者数の推移を確認できます。
・店舗CVR/目標CVR
週ごとの店舗CVRが、目標CVRを上回っているかを確認できます。
・売上金額トップ5
販売している商品の売上金額のトップ5を確認できます。
・売上個数トップ5
売上個数のトップ5を確認することができます。
商品ごとの分析
店舗全体での分析結果だけではなく、各商品のタッチ回数、商品のある棚の前にお客様がいた平均滞在時間、商品CVRや棚CVRなども確認できます。
商品ごとに購入者性別や年齢、表情の分析も可能です。
棚ヒートマップ
お客様がタッチした回数の多い棚の場所を、数字と色の濃淡で表示します。
店舗ヒートマップ
お客様が店内のどこに多くいたかを、店内図の上の色の濃淡で確認できます。
下限警告
棚上の商品数が、設定した下限値以下もしくはゼロになった場合、アラートが発生して知らせてくれます。
持ち去り警告
短時間で、棚上の商品数が設定した値以上に減少した場合、アラートが発生して知らせてくれます。
以上のようにSECURE AI STORE LABでは、カメラやセンサーを使って人手で収集することが難しい量と種類のデータを収集。分析した結果をダッシュボードで確認できます。
SECURE AI STORE LABのシステムと相性の良い店舗は?
SECURE AI STORE LABのシステムと相性の良い店舗について、松永氏によれば「棚の前に何人も並んで立つことの少ない、アパレルや百貨店のような単価が高い店舗が適している」とのこと。
一方、スーパーなど人が多い店舗では「無人化」を目的とするより、SECURE AI STORE LABの商品棚を活用したマーケティング分析などに適しているようです。
導入を検討する企業からの反応と今後について
小売店からSECURE AI STORE LABへの反応について伺ったところ、興味をもった企業から問い合わせが多数来ているとのことでした。
ただし、出入口に設置するゲートは本体価格の高さや、既存店舗の場合はゲートを設置する場所の問題もあって、導入のハードルが高い状態です。
しかし一方で、商品棚を使った分析に興味を持った企業からの問い合わせが増えており、今後は、実店舗での実証実験など、棚解析の改善に注力していく方針であるとのことです。
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