韓国のキャッシュレス導入率はなぜ高い?理由や5つの政策を紹介
最終更新日:2021年11月29日

韓国のキャッシュレス決済状況は90%を超えており、世界でもトップクラスのキャッシュレス先進国です。
韓国では、政府や銀行がキャッシュレス決済を推進したことにより、キャッシュレスの導入が大幅に進められました。
一方日本のキャッシュレス化はまだ遅れているため、
「韓国のキャッシュレス事情を詳しく知りたい」
「韓国ではなぜキャッシュレス決済がこんなに広まったのかな?」
と考えている方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、韓国のキャッシュレス事情について以下のような情報をまとめました。
- 韓国が世界トップクラスのキャッシュレス先進国になった理由
- 韓国政府や銀行によるキャッシュレス普及のための政策
- 韓国で主流のキャッシュレス決済方法
韓国のキャッシュレス状況ついて知りたい場合は、ぜひ最後までお読みください。
韓国は世界トップクラスのキャッシュレス先進国
韓国のキャッシュレス決済普及率は、世界でもトップクラスです。
⼀般社団法⼈キャッシュレス推進協議会の「キャッシュレス・ロードマップ2021」によれば、2018年の韓国におけるキャッシュレス決済状況はなんと94.7%を記録しています。
出典:⼀般社団法⼈キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ロードマップ 2021」
上記のグラフを見てもわかる通り、2位の中国が77.3%のため、他国とは大きく差が開いている状況です。
一方日本の決済状況は24.2%と大変低く、キャッシュレスの導入が進んでいるとは言えません。
では、なぜ韓国ではこれほどキャッシュレス決済が推進されているのでしょうか。
次の見出しでは、キャッシュレス決済が推進されている理由について詳しく見ていきましょう。
韓国でキャッシュレス決済が推進されている理由
韓国でキャッシュレス決済が推進されるようになったきっかけは、1997年のアジア通貨危機です。
アジア通貨危機とは、タイの通貨であるバーツの暴落をきっかけとした、アジア各国における景気悪化の連鎖問題です。
アジア各国の通貨価値が暴落したため、以下のようなことを目的として、韓国政府が主導となってキャッシュレス化(特にクレジットカード)を推進しました。
- 個人消費の増加
- 脱税防止
よって韓国のキャッシュレス決済状況の高さは、上記のキャッシュレス化推進政策の成功を表現していると考えられます。
とは言っても、「本当に通貨危機をきっかけとしてキャッシュレス化が進んだのかな?」と思うかもしれません。
ここで、韓国のキャッシュレス化における2つのデータに注目してみます。
経済産業省が発行している「キャッシュレス・ビジョン」によれば、1999年から2002年にかけてクレジットカードの発行枚数は2.7倍・利用金額は6.9倍に急拡大しました。
さらに、財務総合政策研究所が発表した「キャッシュレス・イノベーション 第9章 韓国の動き」では、2017年における個人消費額に占めるクレジットカード決済額の割合は75.4%でした。
上記のデータから、個人消費でクレジットカードが多用されていることがわかるため、韓国政府の狙いは成功していると言えます。
韓国政府によるキャッシュレス普及に向けた3つの政策
先述の通り、キャッシュレス普及に向けた政策は「韓国政府」によるものと「韓国銀行」によるものの2つが存在します。
まずは、韓国政府が主導となって実施した具体的な3つの政策を紹介します。
- クレジットカードを利用して所得控除
- 宝くじの参加権利を付与
- 年商240万円以上の店舗にクレジットカード取扱を義務化
順番に見ていきましょう。
政策①クレジットカードを利用して所得控除
1つ目はクレジットカードを利用した場合に、所得控除が受けられる政策です。
クレジットカードの決済額が年収の4分の1を超えた分に対し、その20%を所得から控除し、年末の源泉徴収時に還付されます。
上限は300万ウォン(30万円ほど)で、上記の制度を活用すれば、支払うべき税金の金額を抑えられます。
たとえば年収が200万円の場合は、50万円以上クレジットカードを使用すれば、「使用額から50万円を引いた金額×20%」が控除される計算です。
上記のケースで70万円を使用した場合は、(70万円−50万円)×20%となり、4万円が控除されるということですね。
クレジットカードを利用するだけで節税できるので、キャッシュレス化の推進に大きく役立ったと言えます。
ただし、2012年に税制が改正され、控除額は20%から15%に引き下げられました。
政策②宝くじの参加権利を付与
2つ目は、クレジットカードを利用すると、宝くじの参加権利が付与される政策です。
店舗でクレジットカード決済を行った際に、その決済額が1,000円を超えると、レシートに宝くじの抽選番号が付与されます。
クレジットカードを利用するだけで抽選番号が付与されるため、お金を払って宝くじを購入したり、宝くじ購入のために外出したりする必要もありません。
抽選回数は毎月1回で、当選金は1億8千万の大金です。
クレジットカードを利用するだけで大金が手に入るチャンスが高まったことから、韓国のキャッシュレス化は大きく推進されました。
政策③年商240万円以上の店舗にクレジットカード取扱を義務化
3つ目は、上記の2つとは異なり消費者向けではなく、店舗側に対する政策です。
政府はキャッシュレス化推進のため、年商240万円以上の店舗を対象にクレジットカードの取扱を義務づけました。
キャッシュレス化の推進が進まない理由の1つに、手数料の問題が挙げられます。
手数料とは消費者がクレジットカードを使用した際に、カード会社に支払う料金のことです。
手数料は業種やカード会社によっても異なっており、飲食店などは決済金額の5%程度の支払いを求められることが多いです。
ただ上記の政策では、平均月商20万円であれば導入する必要があるため、コンビニや小売店・レストランといった多くの店でクレジットカード払いが可能になりました。
韓国銀行によるキャッシュレス普及に向けた2つの政策
次に、韓国銀行がが主導となって実施した具体的な2つの政策を紹介します。
中央銀行にあたる韓国銀行も、キャッシュレス普及に向けて2つの政策をとっています。
- 汎国民コイン交換運動
- 韓国銀行による釣り銭の電子化(パイロットプログラム)
ひとつずつ見ていきましょう。
政策①汎国民コイン交換運動
汎国民コイン交換運動とは、2008年に開始された「コインレス社会」の実現に向けた運動です。
その名の通り、家やオフィスに眠っている硬貨を、紙幣に替えられることが特徴です。
そして、回収された硬貨は、コンビニや大型ショッピングモールといった現金取引の多いところに再供給される仕組みです。
では、なぜこのような運動が開始されたのでしょうか。
汎国民コイン交換運動が実施された理由は、韓国が硬貨の流通量を減らす「コインレス社会」を目指しているためです。
原材料の高騰によっては、硬貨の製造原価が通貨価値を上回ってしまう恐れがあるとの理由から、コインレス社会が目指されるようになりました。
ただし、コインレス社会が目指すところは硬貨の完全排除ではなく、硬貨の流通量を減らすことです。
汎国民コイン交換運動は、キャッシュレスが普及し、引き出しに眠る硬貨を経済に戻すための施策です。
しかしコインレスを進めることで、さらなるキャッシュレス推進につながると言えます。
政策②韓国銀行による釣り銭の電子化(パイロットプログラム)
釣り銭の電子化とは、韓国銀行が2017年に開始した、釣り銭をプリペイドカードに入金する施策のことです。
消費者は釣り銭の受け取りを、下記の2つから選択できます。
- プリペイドカードにチャージ
- 硬貨で受け取る
大手コンビニチェーンを始めとする多くの店舗が参加し、プリペイドカードにチャージするため、ICカードの販売枚数が急増しました。
この政策は、結果として硬貨の流通量の減少にも繋がっています。
以下のグラフは、キャッシュレス普及に向けた施策実施後の、硬貨の動きを調査したものです。
出典:財務総合政策研究所「キャッシュレス・イノベーション 第9章 韓国の動き」
2017年の4月に釣り銭の電子化(パイロットプログラム)が開始されてから、500ウォン・100ウォン共に、硬貨の流通量の伸びはゆるやかになっています。
今後も活動を継続することにより、下記のような効果が期待されています。
- 公共利便性の向上:店舗は釣り銭の用意・保管がなくなり、消費者は硬貨の持ち運びがなくなる
- 社会的コストの削減:流通する硬貨が減少すると、管理コストが削減される
- 新しいデジタル決済サービスの推進支援:技術的進歩と共に関連サービスが促進される
韓国で普及している主なキャッシュレス決済は3種類
最後に、韓国で普及している主なキャッシュレス決済を3つ紹介します。
- クレジットカード
- Tマネーカード
- ゼロペイ
順番に見ていきましょう。
種類①クレジットカード
韓国でもっとも利用されているキャッシュレス決済は、クレジットカードです。
財務総合政策研究所の「キャッシュレス・イノベーション 第9章 韓国の動き」によれば、個人消費額に占めるクレジットカード決済額の割合は75.4%と、かなり普及していることがわかります。
また韓国で普及している、主なクレジットカードのブランドは下記の通りです。
- VISA
- Mastercard
- JCB
- アメリカン・エキスプレス
- 銀聯(ぎんれん)
銀聯は中国で発行できるカードなので、日本ではあまり知られていないかもしれません。
ただ、そのほかのブランドは日本でなじみ深いものばかりです。
韓国に行く予定のある人は、上記ブランドのクレジットカードを持ってきましょう。
利用できる店舗が多いので、支払いに困りません。
種類②Tマネーカード
Tマネーカードは、鉄道や地下鉄・バスといった交通機関で利用されるICカードです。
交通機関の利用だけではなく、コンビニやスーパーのような加盟店での買い物も楽しめます。
日本のSuicaやPASMOと同じようなカードだと考えてください。
デザインが豊富なうえ、オリジナルデザインも作成できます。
韓国全土で利用できるので、滞在中に交通機関をよく利用するのであれば、作成して損はありません。
種類③ゼロペイ
ゼロペイはスマートフォンを使ったQRコード決済です。
2018年にソウル市が中心となって導入された、比較的新しい決済方法です。
特徴は利用時に手数料がかからないことで、クレジットカードよりもランニングコストがかかりません。
また消費者にとっては、クレジットカードと同様に所得控除を受けられる利点があります。
ゼロペイを使用して支払うと、年収の4分の1を超えるゼロペイ決済額の40%が控除されます。
上限は300万ウォン(30万円ほど)で、上限額はクレジットカードでの所得控除と同じですが、ゼロペイの方の比率が20%多いです。
ゼロペイの活性化をサポートする動きも広まっており、今後クレジットカードに代わっていく可能性もあり、注目を浴びています。
まとめ:キャッシュレス決済を推進したいなら韓国を参考にしよう
韓国は、10人のうち7〜8人がクレジットカードを利用するキャッシュレス大国です。
アジア通貨危機の前までは日本と同様に現金の流通量が多かったものの、韓国政府が主導をとってキャッシュレスを推進したことで大きく変化しました。
韓国政府は、決済手数料の緩和をするためにゼロペイを導入するなど、現在もキャッシュレス推進に積極的です。
韓国のキャッシュレス決済は、これからも推進されていくと言えるでしょう。
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