なぜ日本のキャッシュレス化は遅れているのか?決済比率が低い理由とは
最終更新日:2021年10月27日
日本は現在、経済産業省がキャッシュレス推進政策を実行するなど、キャッシュレス化に向けて大きく動いています。
日本のキャッシュレス化は積極的に進められているように感じますが、実は他国と比較すると遅れているのが原状です。
キャッシュレス化について気になっている方の中には、
「なぜ日本ではキャッシュレス化が進まないのだろう」
「日本ではこれからキャッシュレス化が推進されるのだろうか」
と考えている方も多いのではないでしょうか。
本記事では、
- 日本のキャッシュレス決済の原状
- 日本でキャッシュレス化が遅れている理由
- 課題解決に向けた動き
といった内容についてまとめました。
中でも需要が高い「キャッシュレス化が遅れている理由」を、消費者・事業者両側の観点から詳しく解説しています。
日本のキャッシュレス化の原状と対策について詳しく知りたいのであれば、ぜひ最後までお読みください。
日本のキャッシュレス決済の現状
近年は、経済産業省が中心となってキャッシュレス化を推進しています。
ただ日本のキャッシュレス化は他国と比較すると遅れており、2021年現在も現金払いを続けている人が多いと言えます。
まずは日本のキャッシュレスの現状について、詳しく解説します。
- 徐々に普及しているが世界的にはキャッシュレス途上国
- QRコード決済が急速に普及
上記の2つのポイントについて、順番に見ていきましょう。
徐々に普及しているが世界的にはキャッシュレス途上国
日本のキャッシュレス化は、徐々に進んでいます。
しかし、主要先進国と比べると、まだまだ日本のキャッシュレス化は遅れていると言わざるを得ません。
一般社団法人キャッシュレス推進協議会が発表した「キャッシュレス・ロードマップ2021」では、もっともキャッシュレス化が進んでいる韓国で94.7%、続いて中国は77.3%とされています。
では、日本はどうでしょうか。
同データによれば日本の導入率は24.2%で、3割に満たない数値となっています。
出典:⼀般社団法⼈キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス・ロードマップ 2021」
1・2位以外の国もおよそ40〜60%の決済比率となっており、日本のキャッシュレス決済導入率はとても低いと言えます。
政府による施策も重要ですが、高い水準に到達するためには、企業や消費者が一丸となって取り組む必要があるでしょう。
QRコード決済が急速に普及
ただし日本のキャッシュレス決済の導入率は低くても、国内では大きな流れが生まれています。
日本国内では、従来はキャッシュレスと言えばクレジットカードが主流でした。
しかし、近年はQRコード決済が急速に広まりつつあります。
一般社団法人キャッシュレス推進協議会の「コード決済利用動向調査」によれば、QRコードの送金件数は、2018年から2020年にかけてなんと17倍にもなっています。
出典:一般社団法人キャッシュレス推進協議会「コード決済利用動向調査」
QRコード決済はPayPayに代表される大々的なキャンペーンを積極的に行っているので、この伸び率につながったのではないでしょうか。
また2020年以降のコロナ禍では、感染対策として非接触型の決済方法が注目を浴びています。
たとえばクレジットカードブランドのVisaでは、2020年にクレジットカードのタッチ決済が急速に普及していると発表し、話題を呼びました。(※参考:VISA 2020年を総括 Visaのタッチ決済、国内における普及が急速に拡大)
QRコード決済も、スマホアプリを開くだけで支払いを済ませられるので、感染症対策として活用できます。
上記のように、感染症の流行も導入数増加の原因と考えられます。
日本のキャッシュレス決済比率
次に、日本のキャッシュレス決済比率の内訳を見ていきましょう。
経済産業省が公開している「日本のキャッシュレス決済比率」の資料によると、日本のキャッシュレス決済比率は、2019年時点で26.8%です。
2018年からの普及率は、下記のように推移しています。
決済方法 | 2018年 | 2019年 |
クレジットカード | 21.9% | 24.0% |
デビットカード | 0.44% | 0.56% |
電子マネー | 1.8% | 1.9% |
QRコード | 0.05% | 0.31% |
合計 | 24.1% | 26.8% |
めざましいのは、やはりQRコード決済の普及率です。
先程の見出しで紹介した「送金件数の伸び率」を見てわかるとおり、QRコード決済は今後も発展していくと考えられるでしょう。
また、2019年にはキャッシュレス・ポイント還元事業やマイナポイント還元事業のキャンペーンが政府主導で行われたことも、キャッシュレス化が推進した理由の1つだと考えられます。
しかしキャッシュレス化は推進しているとは言え、やはり他の国々と比べると遅れています。
では、なぜ日本ではキャッシュレス化が遅れているのでしょうか。
次の見出しでは、日本でキャッシュレス化が遅れている理由について詳しく見ていきましょう。
【消費者側】日本でキャッシュレス化が遅れている4つの理由
日本でキャッシュレス化が遅れている理由は、以下の4つが考えられます。
まずは、キャッシュレス化が遅れている理由について、消費者側の観点から紹介します。
- 利用できないお店もあるため
- 現金払いで問題ないため
- どのサービスを選べばいいのかわからないため
- キャッシュレスにネガティブなイメージを持っているため
1つずつ見ていきましょう。
理由①利用できないお店もあるため
2021年現在は多くの店舗でキャッシュレス決済が利用できますが、まだ利用できない店舗も多く見られます。
経済産業省の行った「キャッシュレス決済の実態調査アンケート」によれば、アンケートに回答した事業者におけるキャッシュレス導入率は約7割とのことです。
7割と聞くと、意外と多く感じるかもしれません。
しかし100店舗あるうちの30店舗ではキャッシュレスが使えないと考えれば、まだまだ利用できない店も多いと言えるでしょう。
特に個人経営のお店ではキャッシュレスに対応していない場合が多く、中小規模の一部店舗でもクレジットカードのみなど、使えるサービスが限られる傾向にあります。
そのため消費者側からすると、「どこで使えるかわからないキャッシュレスサービスよりも、現金払いでいいや」と思ってしまうのです。
したがって、どの店舗でも共通で利用できる「現金支払い」に落ち着いてしまうと言えます。
理由②現金支払いで問題ないため
キャッシュレスで支払うメリットを感じづらく、現金支払いで問題ないと感じる人もいます。
ほとんどのキャッシュレス決済ではポイントが還元されますが、ポイント以外のメリットは少ないです。
そのためポイントを貯めることに興味がない場合は、「現金払いでいいや」と感じてしまうのです。
たとえば、韓国のようにキャッシュレス決済によって所得控除を受けられるなど、より大きなメリットを感じることができれば、導入は進むかもしれません。
しかし日本では韓国のようなお得な制度はないため、現金払いを続ける人が多く存在します。
理由③どのサービスを選べばいいのかわからないため
サービスが多すぎて、どれを選ぶべきか判断しづらい点も、キャッシュレス化が進まない理由の1つです。
現在の日本には数多くのキャッシュレスサービスが存在し、比較的馴染み深いクレジットカードだけでも、数多くの種類が存在します。
すると何を選ぶべきかわからなくなってしまい、結局導入を先延ばしにしてしまうのです。
人は選択肢が増えるほど行動ができなくなると言われているため、キャッシュレス決済の種類が増えるほどに、何を選ぶべきか決められなくなっていきます。
もしキャッシュレス決済の種類がありすぎて迷っている場合は、ポイント還元率で選ぶことがおすすめです。
下記の記事では、高還元率のQRコード決済とクレジットカードをランキング形式で紹介しています。
どのキャッシュレス決済を選べばいいか知りたい場合は、ぜひご覧ください。
>>「キャッシュレス決済のおすすめ12選!還元率を重視した1位はコレ」
理由④キャッシュレスにネガティブなイメージを持っているため
中には、キャッシュレス決済にネガティブなイメージを持っている人も存在します。
株式会社J.D.パワーが行った「キャッシュレス決済に関する実態・意識調査」によれば、多くの人がスマートフォン決済機能に悪いイメージを持っていることがわかります。
同調査では、スマートフォン決済機能に対するイメージは、「不正利用される不安がある」が全体の50%ともっとも多く、続いて「個人情報漏えいの不安がある」が全体の42%でした。
3位以降には「ポイント還元がある」などの良いイメージが続き、キャッシュレス決済を積極的に使っていきたいと考えている人の意見も見られます。
しかし一部のポジティブな意見の他にも、
- 操作方法がわかりにくい
- 支払いができる加盟店が少ない
- 事業者やブランドが多くてよくわからない
などの回答を選んでいる人も多く、アンケート全体としてはネガティブなイメージが強く感じられます。
キャッシュレス決済の導入率を向上させるためには、まだ様々な課題が残っていると言えるでしょう。
【事業者側】日本でキャッシュレス化が遅れている3つの理由
キャッシュレス化が遅れている理由は、事業者側にもあります。
- 初期・運用コストがかかるため
- サービスが多すぎてニーズをカバーしきれないため
- 入金サイクルが遅いため
順番に紹介します。
理由①初期・運用コストがかかるため
キャッシュレス決済を導入すると、必ず初期・運用コストがかかります。
初期コストとは、カードやスマートフォンを読み取る端末購入費用のことです。
導入するサービスによって異なり、数万円〜数十万円程度がかかります。
一方運用コストとは、キャッシュレス事業者に支払う手数料のことです。
キャッシュレス決済を利用すると、販売価格の数%を手数料としてキャッシュレス事業者に支払わなくてはなりません。
現金支払いより売上が下がってしまうので、導入に踏み切れない店舗も複数存在します。
理由②サービスが多すぎて消費者のニーズをカバーしきれないため
現在はキャッシュレス決済事業者が乱立しているので、消費者が利用するサービスも多種多様です。
すべてのキャッシュレス決済事業者と契約すると、管理が大変になります。
たとえばQRコード決済だけでも、PayPayや楽天ペイなど、複数の種類が存在します。
各サービスを利用するには各事業者と契約する必要があるので、そのサービスによって入金日が変わるなど、多くの手間がかかってしまうのです。
大規模チェーン店であれば問題ありませんが、中小店舗の場合はキャッシュレスの対応による人件費や管理費がかかりすぎてしまいます。
よってなかなか導入が進まない店舗も多いです。
理由③入金サイクルが遅いため
キャッシュレス決済では現金と違って、その場で売上金額が入金されません。
決められた入金日に、まとまった期間の金額が一度に入金されます。
そのため場合によっては、店舗の運営資金が手元からなくなってしまうこともあり得ます。
経済産業省のキャッシュレス決済に関する調査によれば、「入金サイクルの変化によって資金繰りに困ることがある」と回答した店舗は、全体の2割強ほどでした。
現在では入金までに時間を要しないサービスも増えているものの、店舗の運営にも関わる重要な部分なので、入金サイクルを気にしている事業者も多いです。
日本のキャッシュレスの課題解決に向けた動き
先述の通り、日本のキャッシュレス化は世界と比較すると遅れています。
よって経済産業省や自治体は、キャッシュレス化推進のため様々な取り組みを行っています。
最後に、キャッシュレスの課題解決に向けた2つの動きについて解説します。
- 目標は2025年までにキャッシュレス決済比率40%
- 自治体の窓口や施設等でのキャッシュレス導入
1つずつ見ていきましょう。
目標は2025年までにキャッシュレス決済比率40%
経済産業省が発表している「キャッシュレス・ビジョン」では、日本のキャッシュレス決済比率を2025年までに40%、最終的に世界でも高水準の80%にすると定めています。
もともとは2027年までに40%という目標だったものの、大阪・関西万博開催に向け2年前倒しになった形です。
ただ日本のキャッシュレス化は、コロナ禍によるECサイトやデリバリーの普及により順調に進んでいると言えます。
実際に、MMD研究所が2020年にVisaと行った「キャッシュレスに関する調査」では、キャッシュレス決済で支払うことが増えたと39.3%もの人が回答しています。
このままキャッシュレス化が進めば、決済比率40%はすぐに達成できるのではないでしょうか。
上記のような理由から、今後もキャッシュレス化は進んでいくと考えられます。
自治体の窓口や施設等でのキャッシュレス導入
政府は国全体としての取り組みだけではなく、各地方自治体でもキャッシュレスの導入を取り組むよう求めています。
たとえば、北海道の札幌市では、キャッシュレスSAPPORO推進キャンペーン実行委員会を立ち上げました。
また、札幌市内の店舗におけるキャッシュレス環境の整備を目的として、下記のような活動を行っています。
- 決済端末の導入にあわせて、POSレジアプリを導入
- 各店舗の購買データをSARD(一般社団法人札幌県地域データ活用推進機構)に提供
- データを改善に役立て、経営の改善・高度化につなげる
キャッシュレス決済が進めば、利便性がよくなり、人の移動の活発化も期待できます。
キャッシュレス化の推進は、結果として自治体の活性化にもつながるでしょう。
まとめ:キャッシュレス化を推進するために現状を把握しよう
キャッシュレス化を推進するためには、現状を把握し、課題解決に向けて取り組むことが重要です。
世界的にはまだまだキャッシュレス化が遅れていますが、少しずつ導入が進められています。
キャッシュレスが日本で普及しない理由は、消費者側・事業者側の観点両方に問題があるため、少しずつ解消していかなくてはなりません。
目下の目標は「2025年までにキャッシュレス決済比率40%」です。
キャッシュレス決済の推進は、インバウンドをはじめとした消費の拡大も期待できるため、結果として日本経済の活性化にもつながります。
決済比率を増加させるためには、政府・事業者・消費者が一丸となって取り組むことが重要です。
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