日本初上陸「b8ta」が目指す新しい製品体験と小売りの未来とは
最終更新日:2020年12月04日

コロナ禍において、一層その機会が増えたオンラインでの買い物。
「手軽で便利」というメリットはあるものの、利用者にとっては製品を手に取って体験する機会が失われています。
また、製品を作る企業にとっても、お客様の声が分かりづらくなっているのが現状です。
そこで今注目を集めているのが、アメリカ発の体験型ストア「b8ta(ベータ)」。
来店客には新しい製品の発見と体験を、企業には売り場やお客様のデータを提供し、新しい小売りを実現しています。
まさに、小売業のデータやノウハウと、センサーやAI技術などを組み合わせ「小売のサービス化」を行うRaaS(Retail as a Service)を体現しているサービスです。
b8taが日本に展開することで、企業や来店客に対してどのような影響を与えるのでしょうか?
そこで今回、b8taの特徴や出品するメリット、小売りの未来などについて、b8ta Japan カントリーマネージャーの北川卓司様にお話しを伺いました。
b8taは「今までにない本当の製品体験を提供できる場所」
ーーまず、b8taとはどのような場所なのか教えてください。
北川:b8taは「今までにない本当の製品体験を提供できる場所」を目指して、2015年にシリコンバレーで誕生しました。
店頭に並ぶ製品は、有名テック企業のものからスタートアップ企業が開発するものまで幅広く、今までの小売店では体験できない最先端製品です。店舗を訪れる人には「発見と製品体験」が提供され、出品企業には「展示・販売スペース」「接客対応」「来店者のさまざまな行動データ」などが提供されます。
日本では2020年8月、新宿と有楽町に2店舗がオープンし、初日には両店舗ともに1000名以上の来店がありました。

ーーb8taが主に目的としていることは何でしょうか?
北川:日本のb8taでは「発見」に主軸をおいています。販売を主な目的にしていません。
私たちが買い物をするとき、まず自分の興味をもとに情報を調べますよね。そのため、自分の興味のないジャンルや製品の情報に触れる機会は少なくなってしまうんです。特にオンラインの場合、それが顕著になります。
オフラインの実店舗であれば、欲しい製品の隣に置いてある製品も自然と目に入ります。それがきっかけとなり興味を引かれ、手に取ることもあるかもしれません。これが、オフラインの店舗の良さです。
b8taでは、オフラインの店舗でバラエティ豊かな製品を取り扱うことで、来店客と製品の新たな出会い、「発見」をつくっています。
ーー製品の販売よりも、製品との出会いの場として「発見」を提供しているのですね。
日本のb8taの出品製品はバラエティ豊か。客層も限定しない。
ーーアメリカと日本では、出品企業からのb8taへの期待に違いはありましたか?
北川:出品される企業がb8taに期待することは、アメリカと日本の違いというよりも、その企業のフェーズによって違っていますね。
創業したばかりで資金・売上が必要な企業からは、b8taに対し「ひとつでも多く売りたい」という期待でお声がけいただくことが多いです。ただ、b8taは販売より製品との出会いや「発見」「データ取得」に主軸をおいており、「製品がたくさん売れる場所」ではありません。
一方、創業期を過ぎた企業の場合は、お客様が製品を体験する価値を理解されていることが多いので、販売よりも店舗で収集されたデータが得られることを喜んでいただいています。
ーー出品されている製品に、違いはあるのでしょうか?
北川:アメリカのb8taには、主にガジェットやハードウェアの製品が出品されています。
日本のb8taは、アパレルやフードなども加わり、アメリカよりもバラエティに富んだ製品が並んでいます。これは日本参入時に間口を広くすることに決めたためです。
実際、日本のb8taでは8月のオープンから3ヶ月で、およそ170種類以上の製品が出品されました。

ーーたくさんの製品が出品されているんですね!b8taに製品を出品したい場合、どのような審査があるのでしょうか?
北川:b8taでは、あえて出品される製品の審査をしていません。理由は、審査をする側の好みなどで出品される製品に偏りが出てしまった場合、新たな発見の間口を狭めてしまう可能性があるからです。
そうなると、「リテールを通じて人々に''新たな発見''をもたらす」というb8taのミッションからズレてしまいます。
そのため、私たちはあえて製品を審査せず、基本的にはどんな製品の出品も歓迎しているんです。もちろん、明らかに来店者が不快に感じるような製品はお断りする可能性もあります。
ーーどんな製品でも出品できるとのことですが、出品に「適す製品」「適さない製品」はありますか?
北川:基本的には、どのような製品も出品いただくメリットはあると考えています。
強いていえば、「オンライン上で製品の説明がしにくいもの」はその効果を感じていただきやすいかと思います。例えば、フードやコスメなどは実際に試すことで、味や使用感が分かりますよね。
また、実店舗を持たないアパレルブランドでも、実際に体験してもらう機会をつくれますし、分析データやお客様の声なども取得できます。
ーーアメリカと日本では、客層に違いはあるのでしょうか?
北川:アメリカのb8taでは、消費者向けの製品が多く出品されているので、それらに興味を持つ個人客が多いです。
一方、日本では、消費者向けだけでなく、法人向けの製品もあるので、個人客だけでなく、企業の方も来店されています。
ーー法人向けの製品を直接体験できる店舗はなかなかないので、魅力的ですね。
b8taに出品するメリットとは
ーーでは、b8taに出品するメリットを具体的に教えてください。

北川:出品するメリットは、大きく3つあると考えています。
- 「店頭陳列・販売やオフライン製品体験のコストの最小化」
- 「オフラインのリーチと発見、製品体験の最大化」
- 「リアルタイムで店頭パフォーマンスの最適化」
1つ目は、「店頭陳列・販売やオフライン製品体験のコストの最小化」です。
広告費や販売スタッフの人件費は、全て月額の出品料に含まれています。売り場マージンもなく、売り上げは100%出品企業のものです。
b8taは、好立地の店舗でありながら、費用を抑えつつ出品できます。
2つ目は、「オフラインのリーチと発見、製品体験の最大化」です。
例えば家電量販店の場合、「この製品は何階にある売り場に陳列する」と決まっていることがほとんどです。そうすると、自分の興味のある製品しか体験できません。
b8taでは、同じスペースにさまざまなジャンルの製品が並ぶので、来店客に新たな製品の発見や体験を提供できます。
3つ目は、「リアルタイムで店頭パフォーマンスの最適化」です。
来客数や製品案内のパフォーマンスなどのデータは、ダッシュボードで確認できます。リアルタイムでデータが確認できるので、ダッシュボードを参考にしながら来店客とのコミュニケーションに活かせます。
ーー「データを可視化できる」とのことですが、b8taに出品することでどのようなデータが得られますか?
北川:具体的には、以下のデータが確認できます。
- 製品の前を通り過ぎた人の数(滞在5秒以下)
- 製品の前に5秒以上滞在した人の数
- ストアスタッフが製品デモを行った回数
- 製品の前に5秒以上滞在した人の率
- 製品を発見後、デモまで至った率
- デモを行ってから、販売に至った率
- 販売実数
- 販売金額
- 店頭スタッフが来店客から聞いた製品コメント、フィードバック
- ストアごとの来店数
- ストアごとの来店者の年齢別分布
- ストアごとの来店者の男女比率
これらのデータが、ひとつのダッシュボード上で見れるようになっています。


ーー「製品の前を通り過ぎた人の数」や「ストアスタッフが製品デモを行った回数」といった定量的なデータだけでなく、「店頭スタッフが来店客から聞いた製品コメント、フィードバック」という定性的なデータも得られるんですね。
北川:そうです。定量的なデータよりも定性的なデータの方を喜ばれる企業も多いです。例えば、スーパーでは製品を手にした来店客に対して「なぜこの製品が気に入ったのですか?」とは聞かないですよね。
b8taでは、来店客に製品の気に入ったポイントや購入への障壁などのアンケートをb8taスタッフがとり、企業にフィードバックしています。
ーー来店客に対するアンケートの内容は、出品企業によって変えているのでしょうか?
北川:はい。出品企業が希望された内容でアンケートをとっています。アンケート内容に悩む場合は、質問項目のアドバイスも可能です。
また、アンケートの質問が数十項目あるなど、その場ですべて回答するには多い場合、QRコードを使って、あとから来店客がスマホで回答できる工夫もしています。
ーーアンケートの内容だけでなく、方法も企業に合わせて柔軟に対応してもらえると、お客様の声を聞きたい企業にとっては、とても頼もしいですね。
続いて、b8taは新宿と有楽町に店舗がありますが、客層にはどのような違いがありますか?
北川:新宿は女性、有楽町は男性が多く来店される傾向があります。有楽町は店舗の近くにオフィスビルが多いこともあり、スーツ姿のお客様も多いですね。また、年齢層は、新宿よりも有楽町の方が少し高いですが、週末はカップルやファミリーの来店が増えるので年齢層が下がります。

ーー店舗のある場所や曜日によって、そのような違いがあるのですね。製品のターゲットや特性に合う店舗に出品するのが良さそうですが、出品する店舗は、どのように決めるのでしょうか?
北川:店舗は、製品に合う客層の店舗を出品する企業に決めていただきます。例えば、男性向けのビジネスグッズは、男性客の多い有楽町で出品する。女性向けのアパレル製品は、女性客の多い新宿で出品するなどですね。客層が合っている方が欲しいデータが得やすくなりますので。もし店舗選びで迷ったときには、b8taも一緒に考えています。
ーー客層が違うことによって、得られるデータも変わるのでしょうか?
北川:そうですね、出品する店舗によってデータは変わります。製品に合った客層の店舗に出品するだけでなく、あえて客層の異なる両店舗に出品して来店客の反応をデータで比較することもできます。
例えば、店舗ごとに異なるカラーの製品を出品し、途中で製品を置く店舗を入れ替えることで、どちらの客層に各カラーが人気なのかチェックすることも可能です。
ーー客層の異なる2店舗があることによって、得られるデータの幅が広がりますね。
b8taだからこそできる、柔軟な対応
ーー来店客に対して、多種多様な製品の案内をしたり、製品ごとに異なるアンケートをとったりするのは、店舗スタッフのレベルが高くなければ難しいように思います。これを実現するために、どのような教育をされているのですか?
北川:スタッフの教育は、膨大なマニュアルをもとにしてオープン時に1か月間行いました。来店客の役とスタッフの役に分かれてロールプレイを行い、実践力を磨いています。 来店客から必要な情報を得るため、スタッフの教育をかなり重視してきました。

ーー実際に、柔軟な対応をして出品企業に喜んでもらえたエピソードがあれば、教えていただけますか?
北川:いろいろありますが、ひとつ例を挙げるとすれば、試飲や試食への対応でしょうか。コロナ禍において、感染を防ぐために試飲や試食の提供が難しくなっています。しかし、b8taでは消毒や入場制限などの感染予防対策をしっかり行いながら対応しました。
店舗にはセンサーがあり、混雑具合をリアルタイムに把握できるので、来店客の密を避けるための整列や誘導ができるんです。
b8taの今後の展望と小売りの未来とは

ーーでは、b8taの今後の展望を教えてください。
北川:日本国内でさらに店舗を増やしていきたいと考えていますが、コロナ禍で判断が難しいので店舗拡大のタイミングを検討しています。当面の間は、新宿と有楽町の2店舗をさらに改善し、安定化していくことが目標です。
年内には、b8taのECサイトをローンチする予定です。販売だけでなく、来店客が帰宅後に気になる製品を調べたとき、欲しい情報が得られるサイトにしようと考えています。
また、来年か再来年、カメラやセンサーでデータ分析し、店舗をb8ta化できるソリューションの開発を検討中です。
今後も、日本にないもの、b8taでしか体験できない製品を扱っていきたいと思っています。
ーー「製品との出会い」を中心にしながら、未来を見据えて新しい取り組みを計画されているのですね。では、今後の小売りについてはどう変わっていくと思われますか?
北川:あくまで個人的な意見ですが、短期的な流れとして、アパレルは出勤や通学途中に買ったり、試着したりする流れが加速するのではないかと考えています。
ターミナル駅や商業施設など利便性の高い場所にある店舗は、やり方によってはECサイトの受け取りや試着だけになるかもしれません。
ーーそのように考える理由は何でしょうか?
北川:コロナによって「買い物のためだけ」に外出する機会が減っているのではと考えているからです。
街に人出は戻ってきているものの、商業施設内にいる人は以前ほど多くないように感じます。必要最低限の用事を済ませて、帰っている人が多いのではないでしょうか。
そのため、駅から離れた店舗は、販売を主力にしていると運営が難しくなるので、来てもらう理由を明確にしないといけないと思っています。
ーー長期的な変化については、どのように予想されますか?
北川:長期的には、オンラインとオフラインの垣根がさらになくなると思います。オンラインでは、自分の興味のある情報にダイレクトにつながるので、新しい製品の発見や体験は難しく、その役割はオフラインの店舗に一層求められるようになるのではないでしょうか。こういったところに、b8taは貢献できると思っています。

b8taは、新宿と有楽町の2店舗とも、駅から近い立地にあります。利便性だけでなく、「新しい製品との出会い」を目的に来店してもらえるようにしていきたいと考えています。
ーーありがとうございました。
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